ああそうか、と瀬田は思った。
親友を叩いた美羽も痛いのだ。その証拠に手のひらは赤くなっている。精神的にも傷ついたのだろう。
「なんで………なんで夏目が瀬田君を叩いたの?」
心当たりを聞いているのだろう。
瀬田は目をつぶり、かぶりを振った。
あのことを正直に話すべきなのかもしれないが、夏目のプライドに触るかもしれないからやめておいた。
しかしそんな事実無根、彼女にも通用しなかった。
「夏目がわけもなく人を殴るなんてしないよ。絶対に」
その強い絶対の二文字に瀬田は心を打たれた。
あの二人の間には自分が割入ることのできない年月が流れている。
その年月があるからこそ、夏目は美羽を愛し、また彼女も彼を信頼している。
とてもじゃないが勝てないな、と瀬田は瞼を閉じた。


