よくは知らないがこの男、瀬田 奏は作詞家らしい。それも大有名な。
音楽に興味がない夏目には理解できなかったが、天才の類に入る詩を書くという噂だ。
男が詩なんて、と夏目はひそかに馬鹿にしていた。
女々しい趣味を持っている無口野郎。それが彼の瀬田への評価だった。
それゆえに生意気にも美羽へ他とは違う感情を抱いているところも気に食わなかった。
パッと見ているだけでわかる。美羽と他の女との態度がヒラメとカレイほど違うのだ。
わずかな変化を鋭い夏目は見過ごさなかった。たぶん勘が冴えている優衣も気づいているのだろう。
それでいて優衣は瀬田に協力している。
それにも腹が立つ。
自分を応援してくれると誓ってくれた幼馴染が別の男の恋路を手伝うなど言語道断。
地味に硬派な夏目はそう思っていた。


