しかしプルプル振動し揺れているバケツ型菓子を目の前にすると、たやすく火はともった。情熱の芯まで燃やしそうなほどかぶりつきたい衝動に駆られる。
二人きりならそうしたのだろうが、男子が2人もいるこの状況でそんなことはできない。
夏目は美羽からみると斜め前に座っていて、真正面が優雅に紅茶をすすっている瀬田だ。
隣を取りたい、と夏目が騒いだのだが、優衣が素早く美羽の隣に座ったので大人しくなった。
ならばせめて前を、と思って行動しようとした瞬間に瀬田が真正面で陣取っていた。
「おいコラヘッドフォン野郎。そこどきやがれ!」
馬鹿の相手はしてられない、といった感じで瀬田は目をつぶった。
激しく舌を鳴らしながら不承不承で余った席に座ったのだ。
美羽はポケーと全面ガラス張りのカフェのガラスを通し、行きかう人々と車を流し見ていた。


