---------

学祭休み。
大阪の友達に会いに行った帰りの新幹線。



美しいくらいに青すぎて、恐ろしいくらいに低すぎる初秋の空を、大きな太陽が徐々にオレンジに染めていく。



僕は流れていく風景を眺めながら、ケントのことを思い出す。



ケントと繋がって顔を出すのは、中学、高校の青春時代。



中3の頃、合唱コンクールの練習期間で、A組に殴り込んできたクラスがあった。



自分のクラスの指揮者をバカにされた、と、F組のクラス委員が乗り込んで来たのだった。



あの時、ケントは返答に困るA組のクラス委員の前に立ち、“文句があるならかかってこい”と、相手にすごんでみせたのだ。



F組の連中が帰ったあとで、指揮をバカにしていた、と言うよりは、“ウチのクラスの指揮の方がうまいよね”と言っていた女の子が、泣き出してしまっていた。



そうしたら、ケントはその子の机まで行って“A組の指揮が一番うまいんだから仕方ないよな”と、慰めていたのだ。



校内でもブラックリストの筆頭に名前が載っているケントは、クラスを思う優しい心を持っていた。



証拠に、合唱コンクール当日だけは、ちゃんと制服を着て来たし、クラス内の不良たちにもそれを徹底させた。



A組は当日、最優秀賞を獲得し、ケントの音頭で指揮者と、担任を胴上げした。



懐かしい思い出も、今思い出すとどこか切なく、歯がゆく、そして苦しい。



車内で携帯を取り出し、電話帳に載っている「倉木ケント」の名前を見つめる。



なんでだよ、ケント。