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何度も何度も、携帯の電話帳を開いては、「倉木ケント」の名前を見つける度に、発信ボタンを押すか押すまいか、僕は悩んだ。



電話をかけて、それからどうする?



久しぶり、調子はどう?



事件、起こしたんだって?



大変だったね。警察には行ったの?



部活はどうするの?大学は?就職にも響くんじゃない?



僕が聞いていいことじゃない気がした。多分僕がどんなに言葉を選んで、何を言っても、薄っぺらなセリフにしか聞こえないだろう。



安っぽい慰めの言葉なんか、僕にかけられたってケントは辛いだけな気がした。



いや、僕が辛いのだ。



ケントを慰める?僕が?



意味が分からなかった。



ケントは僕のあこがれで、目標で、眩しすぎるくらい輝く太陽だ。



そんなケントにかける言葉は、ないような気がした。



違う。ケントにそんなふうに接してしまったら、僕が見ていた景色が、ガラガラと崩れていってしまうようで、



僕が今まで思い描いていたケントの姿が、幻だったみたいに消えてしまうようで、



それがただ、とにかく、怖かったんだ。






そんなふうに思い悩む僕は結局ケントに電話をかけられないまま、



3日、4日と、日にちだけが虚しく重なっていった。