「しゃあっ!」



ひとつ気合いを入れて、もう一度組み手争い。



100キロ近い体重にそぐわないケントの動き。僕の動きよりよっぽど速い。



もの凄い勢いで伸びてくるケントの左手を、両手で押さえて袖を掴む。



「…!」



左手を押さえた僕の背中を、ケントの右手がバシッと叩く。その瞬間、その右手が尋常じゃない力で僕を引き付け、ケントが再び強烈な内股を放つ。



「どらぁっ!」


「うわっ…!」



今度はなんとか腹ばいで逃れる。柔道は投げられても背中がつかなきゃポイントにならない。



「ちぃっ」



悔しそうに再び間合いをとるケントと僕。



再び組む。



今度はまともに組み合った。



待っても始まらない。ひとつ、ふたつとステップを踏んで、背負い投げをかける。



が、ひらりと難なくかわされる。



「甘いっ」



そのままケントは僕の襟を持ったまま、畳に引き倒す。



「ちょ、ちょっと待った!寝技ナシ、ナシっ…!」



「はぁ?アユム、お前なー。ま、いいや。寝技は体格差が出るからな。じゃ、立技オンリーで」



立ち上がった僕とケントは、再び間合いをとって仕切り直した。



正直言って全然投げれる気がしないけど、目まぐるしい攻防と、相手との駆け引きに、投げ技の応酬。



柔道の醍醐味を一身に感じながら、僕はケントとの闘いを思い切り楽しんだ。