『…あのさ』



「なに?」



ケントが、数秒続いた気まずい沈黙を破る。



『学校行かないか?』


「東中?」


『うん』


「今から?」


『うん』



部屋の掛け時計はもう23時を示していた。母校の東中までは、原付で10分。



「いいよ。じゃあ11時30分に正門で」


『オーケー』



あっけなく、電話は切れた。



僕はベッドから跳ね起きると、目の前のクローゼットを勢いよく開けた。



部屋着のスウェットの上に白のパーカーを羽織る。



くるぶし丈の靴下を履いて、黒のニット帽を被ると、1階への階段を駆け降りた。



リビングでテレビを見ていた姉に行き先を告げる。



「東中行ってくる」


「ふぅん、何しに?」


「ケントに会いに」


「…あっそ」



母や親父がいなくて良かった。



あまり多くを詮索しない姉は、家族の中でもいい距離感を保っていられる唯一の人物だ。



「あ、帰りにジャンプ買ってきて」


「いいよ、行ってきます」


「ん。いってら」



家を出た僕は、玄関先に停めてある中古の原付にまたがった。







ケントに会える。



不安や怖さよりも、懐かしさや嬉しさが上回って、僕は力一杯アクセルをふかした。