「夢…か……。薬を飲まずに寝るなんて、久しぶりだな…。」
汗をかいたのか、体と下着が湿っていた。蓮は着替えを持って部屋についているバスルームに向かった。
つまみを回して温かくなるまで待ち、湯気が出てから、頭からシャワーを浴びる。
「(あの時…私はどうするべきだったんだ?円の言うように殺しておけば良かったのだろうか?)」
髪と体を洗い終え、白のシャツに黒のスーツのパンツという、蓮がいつも着ているラフな私服である。
鏡台の前で黒のリボンを2つくわえて、髪型をツインテールにする。
蓮が財布をポケットに入れたとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
「珍しい、起きてたのか。」
ユリアが入ってくる。
「朝食の用意はしてあるけど……出かけるみたいだな。」
「ああ。じいさんにこれを。エリーゼからのバレンタインだ。」
ユリアにチョコを渡す。
「確かに預かった。そうだ、夕食までには戻ってこい。」
「ん?まあ、それまでには帰ってくるつもりだが…。何かあるのか?」
「ちょっとな。さあ、シーツを変えるから、早く出ろ。」
半ば強引に話を終わらせて、ユリアは蓮を部屋から追い出す。
「何なんだ?」
首を傾げながらも、蓮は屋敷から出た。
………………………。
……………。
……。
ビッグベンの正午を告げる鐘が鳴り、鳥達が飛び立つ。
