「気にしないでいい、耳は聞こえているんだろう?」
蓮の言葉に少女は頷く。
「はい、お待ち!」
料理を乗せたトレイを2つ持った女将さんが出てくる。
1つは少女が頼んだ料理、もう1つはその日捕れた魚介類を使ったスープスパゲティ。蓮がいつも注文する料理である。
蓮は料理を受け取り、店の一番奥の2人用の席に座る。すると自分のトレイの前に、別のトレイが置かれた。
『座ってもいいですか?』
少女が手話で尋ねる。
「ああ、どうぞ。」
蓮は笑顔で答える。少女はニッコリ笑って座った。
「いただきます。」
蓮が手を合わせると、少女も手を合わせていた。
『あなたも日本人ですか?』
「ああ。君もか。イギリスには何をしにきたんだ?」
『お仕事で来ています。私の名前は鷺宮傘(さぎのみや さん)と言います。』
「私の名前は神崎蓮。また合うかわからないが、よろしくな。」
蓮はスープスパゲティを食べ始める。少女も食べ始めたのだが、フォークをまるで刀を逆手に持つように持って、サラダを突き刺してガツガツと食べる。
「傘、フォークはこうやって持つんだ。」
蓮は傘に持ち方を教える。
「軽く差し込むだけでいい。力はいらない。スパゲティはスプーンの上で巻き取るように使う。やってみろ。」
