「問題は私じゃなく彩華だった。母親と一緒にお見舞いに来たとき、あの子は表情を失い、『お願い、ずっと一緒にいて。』『いい子でいるから、どこにも行かないで。』と、繰り返し言うんだ。私がいない家でも言っていたらしい。」
「……………。」
一昨日の彩華の寝言を思い出す直樹。
「数日後に退院した私にしがみついてきて、その日は離してもらえなかった。1ヶ月くらい経って、ようやく元の彩華に戻ったんだが、その間から私の隣で寝るようになった。」
「俺はどうすればいいんでしょうか…。」
「優しすぎないようにしてくれ、度が過ぎた優しさは彩華をさらに依存させる。あの子が、もし壁にぶつかったときには、一緒に乗り越えてあげてほしい。それぐらいの優しさでいいんだ。」
蓮は直樹の肩を軽く叩き、屋上から出て行った。
直樹はグッと拳を握りしめ、グラウンドを眺めていた。
…………………。
…………。
……。
屋上から出た蓮は着信音が鳴り響くケータイを取り出す。
「急用か。」
『察しが早くて助かる。こちらに来てほしいんだが…かまわないか?』
電話の主はエリーゼの祖父、アルフォードだった。
「大丈夫だ。」
『明日の正午、空港に飛行機と護衛機を向かわせる。』
「了解した。エリーゼはどうする?連れて行くか?」
『いや、今回はあの子は関係ない。』
「わかった。」
ケータイを切って、蓮は準備のために寮へ戻った。