「一番辛いのは蓮だ。あの子は他人の幸せを優先する。心も猫のように自由にすればいいのにな…。」
「どういうことです?」
「いずれわかるさ…。」
…………………。
…………。
……。
【直樹の部屋】
時刻は深夜3時を過ぎたところ。直樹は喉が渇いて起きてしまった。
「水でも飲むか…。」
そう呟いて、体を起こしてベッドから出ようとしたとき、着ていた長袖のシャツの左袖が引っ張られた。
振り向くと、いつの間にか隣で寝ていた彩華が掴んでいた。
「また落ちてきたのか…。」
クスッと笑い、シャツを掴む彩華の手を離そうとする。
「イヤ…。」
「え?」
彩華が声を出したので、直樹は少し驚く。
「お願い…ずっと…一緒にいて…。いい子でいるから……どこにも行かないで…。」
体は震え、涙を流しながら寝言を言う。直樹は嫌な夢でも見ているんだろうと少し様子を見ていたが、震えや涙は収まらず、行かないでと彩華は繰り返し呟いている。
直樹は試しに隣で寝てみると、彩華の震えや涙が止まり、悲しそうな表情から嬉しそうな表情へ変わって、直樹の左腕に抱きつく。
「(どうしたんだろ?こんなことなかったのに…。)」
直樹は考えた。2年生になってから、彩華が隣で寝ていることが何回もあったが、こんなことは一度もなかった。
