「え〜っと。ここはもう少し伸ばすか。」
蓮が長い銀髪を払いながら、机に置いていた楽譜に書き足していく。
「会長。」
「なんだ直樹。ノックも無しに入るなんて、何か急ぎのようか?」
特に驚きもせず、蓮は直樹の方を振り返らずに、ただ楽譜を書き足す。
「会長はエリーゼの両親のことを知っていますか?」
直樹の言葉に、蓮の楽譜を書く手が止まる。
「知っているなら教え――――」
「知ってどうする?」
直樹の言葉を遮るように蓮は言った。
「え?」
「知ってどうすると言ったんだ。」
「エリーゼに教えてあげます…。」
「教えられるなら、とうの昔にアルフォードのじいさんがエリーゼに教えている。」
ギターを机に置く。
「でも、それじゃエリーゼが―――うっ!?」
蓮にネクタイを掴まれる。
「エリーゼがなんだ?かわいそうか?それを知ったお前とエリーゼは辛い道を歩くことなるぞ。直樹、お前はエリーゼを一生守るのか?エリーゼのために、お前はその手を汚せるのか?」
真剣な目で直樹を見つめながら言った。
「お、俺はただ…。」
「優しさは時に人を傷つけるぞ。お前がエリーゼと一生共に生きていくのなら教えてやる。その覚悟、お前にあるか?」
蓮の問いに、直樹は答えられなかった。
