「遥?………ここは?」
「私の部屋。いきなり倒れたから連れてきた。」
「ありがと――――あれ?」
右手の人差し指に切り傷ができていた。
「倒れたときか?」
「見せて。」
直樹の手を取ると、遥は口に入れる。
「え?」
「ん………。」
古典的な止血をする遥。
「あ…。」
普通なら止めようとするが、まだ頭がボーっとしている直樹は、ただ遥が止血を終えるまで見ていた。
「はい、終わったわ。」
「ありがとう、遥。」
止血をし終えた遥は、もう一度本を読み始める。
「遥って、何だか不思議だよね。」
「はい?頭でも打ちましたか?言葉の意味がわからないわ。」
少し首を傾げるが、目線は本に向いたままだった。
「なんか気になって図書室に入ったんだけど。」
「読みたい本でもあるの?」
「いや、本じゃなくて、遥にだよ。今回は倒れてしまったけど、また行って――――」
「直樹が望むなら、いつでもどうぞ。」
直樹が言い終える前に遥は言った。
「そっか、なら…また行く……よ。」
疲れがまだとれていないのか、直樹はまた眠たくなってきた。
「もう一度、眠りなさい。」
直樹の耳に、またモスキート音が聞こえてきた。
