この後、直樹と優華は鮮度バツグンの魚を進められたが断った。
「そういえば、ちゃんと名前を聞いたことなかったな。」
「俺は阿部直樹だけど…。」
「阿部…直樹。ほう、なるほど。」
また沙織が直樹をじっと見つめる。
「なるほどって何?」
「いや、気にするな。そっちは蓮の妹だな、双子の下の方だったか?」
「はい、優華です。」
優華が深く頭を下げる。
「うむ、よろしく頼む。私のことは沙織でいい。おや?もう風呂が沸いたようだ。」
いつの間にか風呂が沸いていた。
直樹が風呂に入っていると、優華と沙織の話が聞こえてきた。
「沙織さんのお父さんは国会議員ですよね?どうしてこんな所に住んでいるんですか?」
「親の育成方針でな、高校生からは1人で生きていかないといけないんだ。初めは貯金があったから寮に住んでいたんだが……子供の貯金だからな、すぐに無くなってしまった。」
生の魚を食べながら沙織が話す。
「一定のお金を貯めると、一人前と認められて普通に暮らせるんだ。」
「いくらだよ?」
話を聞いていた直樹が沙織に言った。
「10億。」
沙織の言葉に直樹と優華が固まった。エリーゼだけは、美味しそうに魚を食べていた。
「じゅ、10億円を貯めないといけないんですか…?」
信じられないといった顔で優華が言う。
「そうだ。まあ、蓮が魚を買ってくれるから、お金は貯まっていくんだがな。」
