いつの間にか5月が過ぎ、6月になっていた。天気は晴れ、気持ちのいい風が吹く休日の朝、1人の少年が中庭のベンチに腰掛けていた。
「………………。」
何も言わず、ただ流れる雲を目で追っているのは阿部直樹。
直樹は考えていた。夢に出てくる女の子のことを。思い出そうとしても出てこない、彼には小さい頃の記憶が所々欠落している。
「誰なんだろ。というか、俺はその子に会ってどうするんだ?誰かもわからないし、向こうも覚えているのか……。このままじゃ、曖昧な断り方をした遥に申し訳ない。」
大きな溜め息を吐いて、直樹はうつむいた。
「(遥のことは気になってた、不思議な感じがして。今じゃオープン過ぎるけど……。誰かを好きになったことなんて―――)」
「何してるんだ?」
声をかけられて、直樹は振り返る。そこにはワイシャツにスーツパンツの蓮がいた。
『蓮さんと付き合ってるの?』
不意に遥の言葉を思い出し、直樹は顔を赤くした。
「い、いや、ただの光合成です!!」
日光浴と言おうとしたのだが、慌てて答えたので間違えて言ってしまった。