10時 いつもの時間に携帯電話の呼び出し音。

♪プルルルル♪

「もしもし 瀬名? 今日も一日元気だった?」

優しく響く雅紀の声にほっとする時間。

「うん、元気だよ。まあちゃんは風邪なんか引いてない? もうすぐ試験だもんね。勉強はどう?」

「まあまあかな。英語がやばいかも」

付き合って以来習慣になっている毎日の電話。
何か特別な話をするわけではない。

でも二人にとってとても大切な時間。

別々に過ごした一日を報告しあい、二つの時間を一つにする作業だった。

「願書はもう出したの?」

「うん、今書いてるところ。大量だから書くだけで疲れる」

「そうだよね。意外に記入するところいっぱいあるし、ボールペンだから間違えられない緊張感が」

「そうそう。もう肩凝って大変だよ」

「そっかあ。じゃあ、邪魔しないようにもう切るね。無理しないでね。おやすみなさい」

「瀬名、愛してるよ おやすみ」

愛してるよという雅紀の声が毎日私を安心して眠らせてくれた。


結局3校12学部。12回もの試験に臨むことになった雅紀。


私たちが通う大学の試験の日は大学の最寄り駅で待ち合わせて見送った。

「がんばってね。名前書くの忘れちゃだめだよ」

「わかってるって」

「これお弁当。お昼に食べてね」

雅紀が大好きな卵焼き、ピーマンとじゃこの炒め物、そしてべたに縁起を担いで一口カツを入れた。

「ありがと。じゃあ行ってきます」

大学へ向う雅紀の背中を不安な気持ちで見送った。


2週間かけて全日程をこなした雅紀。

ずっとデートしていなかった私たちは雅紀の部屋でくつろいでいた。