”みんなが提出した書類の確認でもう少し遅くなるかも。よかったらお兄さんのバーで待ってって”

こっそり机の下でメールを打つ。

生徒から提出されたマークシートは記入された学校名と塗りつぶされたコードが合わず、訂正に追われていた。

「岩堀さん、なんでちゃんと確認してないの」

申し訳ありません…。急いで処理を済ませた。


雅紀が待つバーへと向かう、

「こんばんわ」

そう言って店内に入ると雅紀が裏メニューのカツサンドにかぶりついているところだった。

「ごめんね 待たせちゃって」

「全然! 色々話聞きながら楽しく待ってたよ」

いつもの笑顔だ。

私はカウンターに座る雅紀の隣に座った。

「いらっしゃい、赤ワインでいい?」

そういうとお兄さんは手際よくグラスを私の前に置いた。

「忙しかったの?」

「みんなコードめちゃくちゃなんだもん。主任さんに怒られちゃった。向いてないのかな。全然言うこと聞いてくれないし」

「みんな瀬名のこといいチューターだって言ってるよ」

サンドイッチを平らげた雅紀は手を拭きながら続けた。

「今日は瀬名だからみんな自由に楽しそうに出来てたんだよ。違うチューターの日、あのクラスお通夜みたいに暗いんだから。自信持って! とにかくお疲れ様。乾杯!」

雅紀の言葉は魔法の言葉だと思う。
些細なことですぐに落ち込む弱い気持ちがあっという間に元気になる。

「そういえばもうすぐ瀬名の誕生日だよね」

x'mas 

帝王切開で私を生んだ母がみんなが覚えやすいようにとこの日を手術日に選んだ。

街中がイルミネーションに飾られて輝く。

そんなちょっと非日常な中で向かえる誕生日が大好きだった。

帰り道、もう吐く息が白い。

寒さに冷たくなった手を、暖かい雅紀の手のひらが包み込む。

「瀬名の手 冷たいね 暖めてあげる」

私の手を握ったまま自分のポケットに入れた。

寒さが苦手で嫌いな冬だけど、雅紀と一緒なら楽しかった。

帰り際、いつものキスをした。