さやの声も2人には聞こえていない。

私達の周りには遠巻きにやじうまが集まっている。

「おれが地方に行って寂しかっただけだろ? それともおれが今まで浮気したりしてたから? だからその仕返しか? 浮気だったらもう二度としないって誓うからさ、だからおれと一緒に帰ろう」

ものすごい力で腕をつかまれた。
何度振りほどこうとしても離れない。

「違う。そうじゃない、そんなんじゃない」

もう涙で声にならなかった。

「じゃあなに?」

涙で乱れた呼吸を整え、落ち着いた声、冷静を装った。

「私は浩一のこと大好きだったよ。あなたの弱いところも全部含めて。でもどこかで寂しかった。ずっと気持ちは1人ぼっちだった。でも、雅紀といると私はほんとにホッとする。優しい気持ちをいっぱいもらえる。そんな自分をごまかしてでもなんとか続けられないか? やっと人を信じてくれるようになったあなたを裏切れないって。そう思った。そう自分に言い聞かせようとした。でも…。やっぱり自分に嘘つけなかった。山口に行った時も私は雅紀のことばっかり考えてた」

私がそう言った瞬間、
地響きがするような声をあげながら浩一は私をシャッターに叩きつけ首を押さえつける。

雅紀とさやが必死で止めようとする。

私は突然の出来事と、苦しそうに私を見る浩一の眼に抵抗することを忘れていた。

みんなごめんなさい……。
そう心の中で叫びながら、私は意識を失った。