翌日は12時にはメールが届いて、15時にいつもの公園前まで迎えに来てくれた。

横断歩道を渡り車に駆け寄ると見慣れた仕草で煙草を吸う姿があって目の前まで近づくと大好きな雅紀の匂いがする。

甘い香水とマルボロメンソールが混ざった香りが私を安心させた。

怖がりで変に神経質な私のために適度なスピードと車間距離を保って運転してくれる。

夕食は港の夜景を一望できるカジュアルなレストランだった。

昨夜の喧嘩が嘘みたいに楽しい時間が流れる。

もう5年以上の時が過ぎて何度も二人で訪れた店なのに飽きるどころかそこには安心感があった。

食後スタバで買ったエスプレッソを右手に持った雅紀の左手を握り埠頭を散歩した。


「コーヒーって香りはいいのにね」


「美味しいよ、飲んでみる?」


「いらない。苦いし後味が許せないの」


いつもコーヒーを飲めない理由をこうして繰り返す度に雅紀は子供だなって笑った。

でもそんな風に雅紀に子供扱いされることが少しだけ嬉しかったんだ。

そのままさよならする日も、お泊りする日もキスをすると食後の雅紀からは私にとって大人の香り『コーヒー』の匂いがして甘えることを許される気がしたから。

今日も二人で夜を過ごす。

もう何度目か分からないぐらいだったけど、見つめられるとドキドキしてその手が触れるたびに肌が熱くなった。

ケンカもたくさんする。分かってるようで相手の考えてることなんて全く分かってないのかもしれない。

イライラしたり泣きたくなることだってある。

でもそんなことを忘れられるぐらい隣で寝息を立てる寝顔が愛おしいと思った。

寝起きの雅紀にすっぴんでおはようって挨拶してギュッと抱きしめてもらうと大袈裟かもしれないけれど生きていてよかったと思った。

一生こんな風に雅紀の腕の中で目を覚ましたいって願ってたんだ。