10年越しの恋

「じゃあ結婚するまで今の仕事続けるつもり？」


「さぁね…。　大体結婚出来るなんて保証はどこにもないんだし」


何気なく発した自分の言葉が急に現実感を帯びて目の前に迫ってくる。

あえて見ないようにしていた事。

たとえ卒業を待って結婚へと向かったとしてもまたあの日と同じように反対される。

雅紀との未来を想像するたびにいつも付きまとう不安だった。


「もう私のことはいいじゃない！　今日はケンも凹んでるんでしょ。話してくれたら慰めてあげるよ」


これ以上考えたくなくて話題を変える。

ケンは全く納得がいかない様子でグラスを手に握ったまま黙りこくっていた。


沈黙が続く中マスターが灰皿を取り替えに来てくれる。


「すいません、赤ワイングラスで頂けますか？」


なんとか雰囲気を変えようと声を掛けた。


「じゃあ俺は同じものを」


グラスを下げるマスターに笑顔で答えたケン。

そのまま私に顔を向けた。


「またなんかあったらいつでも聞くからさ。連絡して来いよ」


「ありがとう」