10年越しの恋

今さっき電話を切ったばかりで、だから咲からケンに連絡出来てるはずないし…。

でもケンがここに居て笑ってる。

今日は本当に予想外のことばかりが起こる。

「いつもの」という決まった生活を好む私にはもう対応できない日だと思った。


「瀬名ちゃん? なんか挙動不審だけど」


ケンの一言に我に返り改めて向い直す。


「偶然だよね! 営業の帰り?」


多分それほどは的外れになっていないだろう返事をした。


「いいやもう仕事帰り。そっちこそこんな道の真ん中に立ち尽くしてどうしたの?」


「家の鍵を会社に忘れたかもって急に思い出して、それでカバンの中漁ってて」


しどろもどろのいい訳を繰り広げた。


「ちょっとごめん」


内ポケットの中で振動する携帯を手に壁に寄りかかるみたいに話し始めた。

仕事の話だろうと思った私は少し離れた場所にある電柱にもたれかかる様にして話し終わるのを待っていた。

電話を終えたケンが笑っている。

何かいい報告でもあったのだろうか?

今日は少し凹んでるって咲が言ってたことを思い出した。


「なんかいいことあった?」


その雰囲気を壊さないように声を掛けた。


「瀬名ちゃんも暇なんだって!!! なんでそれを早く言わないかなー 飲みに行こうぜ」


「言うも何もさっき偶然会っただけじゃん!」


電話は咲だったんだ。

嫌な意味での予想外が続いた1日の終わりに、楽しい予想外が待っていたみたい。

どんどん先に進むケンの大きな背中を追いかけた。



「とりあえずビールで!」


予定していたハワイアンバーは満員で入れず、近くの居酒屋で運ばれて来てもまだ白く凍結したジョッキで乾杯した。

酒飲みの私としては小さなおしゃれなグラスに注がれて出てくる生ビールよりもこうして重くて分厚い飲み口の生中の方が美味しく感じられる。



「相変わらずというか言い飲みっぷりだよな」


「だってこの為に働いてるって言っても過言じゃないよ。1週間の嫌な事が吹っ飛ぶ瞬間ってね

東京で言う新橋、全国的には赤ちょうちんと言われるこんなおやじ居酒屋でも誰かが傍にいてくれるだけでうれしかったんだ。