10年越しの恋

そんな街中に一人佇む私は誰かに会いたくて仕方がなかった。

そんな衝動に突き動かされるままアドレス帳の中から咲の番号を検索してコールする。


「もしもし咲? 暇だったらこれから夕飯どう?」


あくまで何気ない風を装って声を掛けた。


「ごめん…。今日は先約あるんだ」


申し訳なさそうな声が華やいで聞こえるのはデートの約束があるからかな?

咲にも大切な人がいるもんね…。

また少し寂しさを覚える。


「そっか! じゃあまた今度」


電話を切ろうとすると咲の声が目の前にある携帯から聞こえてくる。


「瀬名がもし暇ならケンとご飯してやってよ!」


改めて耳に当て直して聞き返した。


「なんでケンなの?」


「今日いろいろあって凹んでるからってご飯誘われたんだけど私無理だから。10分後にあのハワイアンバーで待ってて!」


「ちょっと待ってよ」


「ケンには私から伝えておくから。じゃあまたね」


またも突然に切られてしまった電話。

どうもおかしな1日だと思い動けなくなってしまった。

そのままその場に立ちつくしていると背後に気配を感じた。でも正直振り返るのが怖い。

なんだか今日は最悪についていない日みたいだし…。

これで会社のオヤジとかだったら最悪だよ。

鞄を握りしめる手にも自然と力が入る。

もうこれ以上の災難は勘弁してください。そう願いながら後ろを振り返ると相変わらずがっちりとした大きな肩を揺らすケンが立っていた。