デスクに戻り平常心を取り戻してPCに向かい合う。

気持ちの切り替えが大切! 以前ニックが教えてくれた。

それからも何度か二人の会話が耳に入ったが金田の事は森さんが引き受けてくれると約束してくれたので安心して目の前にある残っていた伝票の処理に取りかかった。

1時間の残業でなんとか締め日を乗り切って会社を後にする。

今が丁度雅紀との待ち合わせの時間。10分程遅れる旨を伝えようと電話を掛けた。

♪プルルル♪ 5度目のコールが鳴り終わっても出る様子がない。

7度目に留守番電話へ転送される。


「現在電波の届かない所にあるか電源が入って」


アナウンスを聞き終える間もなくもう一度掛ける。

今度も同じように繋がらない。

何度目かのリダイアルを繰り返した向こう側に聞こえたのは寝起きの雅紀の声だった。


「もしかして寝てた?」


「うん…… 何?」


「今日会う約束してたよね…」


「そうだったっけ? っていうか俺寝てんだから何回も電話してくるなよ」


「でも約束してるから!」


「プープープー」


会話をする間もなく電話は切られてしまっていた。

あまりの態度に思考回路はついて行かずに頭は真っ白、なのに気持ちは敏感に反応していつの間にか涙がこぼれ落ちていた。

就職の話が出始めてから様子がおかしいのが気になってはいたけど……。

何もよりによってこんな日にドタキャンしなくたっていいじゃん。

今日は雅紀に聞いて欲しかったのに。

聞いてもらえると思ったから1日頑張ったのに…。


普段よりも少しだけ着飾り足早に駅を目指すOLの姿。

コンパ前なのか大声でメンバー構成を話しながら目の前の居酒屋への階段を下りて行く若いサラリーマン。

金曜日の7時を過ぎたオフィス街は週末を楽しもうと浮足立つ雰囲気に包まれていた。