「直接家を継ぐの？」


「それもわかんない。ごめん」


途切れ途切れの会話。


「瀬名は卒業したらその…　結婚って思ってるよな」


あまりに予想外の答えと戸惑う雅紀の雰囲気に言葉を失う。


「そんなこと気にしないで！　まあちゃんが思う人生を選んでね」


何故か心にもないことが口をついて出た。

本当は卒業したらすぐにでも結婚したいよ！　一緒に住んで、華ちゃんを取り戻すんだ。

そんな思いでいっぱいだったのに。

言えなかった。言ってはいけない気がした。


「ゆっくり考えてね」


「わかった、じゃあ今日は切るね。愛してるよ」


ありがとうと答える間もなくそのまま切れた電話。

携帯を握りしめたまま動けなかった。

”このまま信じていいんだよね”

モモに答えを求めるように問いかけると愛くるしい顔でタイミングよくクーンと鳴いてくれる。

濡れた真っ黒で無垢な瞳で見つめてくれる小さな体をたまらない気持ちで抱きしめた。

”大丈夫だよね”　同意を求めるようにおもちゃで遊ぶモモを抱き上げると誰よりも優しい目で見つめながら鼻を舐めてくれる。

それでも不安が気持ちを支配し、眠れない夜を過ごした。