「ケン、私本当に大丈夫だよ」


真近にある顔を覗きこむように伝えると私のバックを反対の手に握りなおして頭を軽くポンと叩いた。


「俺こいつ送っていきますから、大沢さんは咲さんお願いします」


「私咲と一緒に帰るぅ」


「お前ら全然方向違うだろ」


そんな私達の様子を眺めていた二人はわかったという風な様子で駅へと向かって行った。


「なんでケンが送ってくれるの?」


「ほら! もういいからそこでじっとしてて」


急いで捕まえてくれたタクシーへ素直に従って乗り込んだ。


「久しぶりだね」


「それもう3回目だから」


「そうだっけ? だって久しぶりに会えてうれしいんだもん」


「分かったから」


「なんか返事が冷たい! ケンはもっと優しい人」


酔うと普段冷静な自分を演じながら心の奥底に押しやった気持ちが勢いよく姿を現す。

誰かに甘えたい気持ちを抑えられなくなってしまうのだ。

でもケンはケンのまま、変わらない態度で接してくれた。


いつの間にか窓の外には見慣れた景色が広がりもう家が近いことがわかる。


「もう着いちゃうね」


「おう! もう着くよ。2つ目の信号のところで停めてください」


「なんでケンは知ってるの?」


いつも私がタクシーを降りる場所を指定していた。


「昔何度かこうして送ったことあっただろ」


「そうだったっけ?」


「覚えとけよ」


私の無神経な言葉にもふっと微笑みで答えてくれた。


「3000円です」


支払いを済ますと奥に座った私を下ろすために1度一緒に降りる。


「じゃあな! また遊ぼう」


そう言って手を振りタクシーに乗り込む姿に寂しさを覚えた。


「もう少し一緒にいたいな」


無意識だったと思う。


「何言ってんだよ! 酔っぱらいの瀬名ちゃん。彼氏が心配してるから早く帰って電話しなさい」


そんなケンの言葉にぎりぎりの所で保たれていた理性が押しとどめてくれる。


「はーい。また遊ぼうね」


窓を開けて手を振る姿を見送った。