「じゃあ松本と二人で応援してよ」


弾むような気持ちを隠さない咲は手を離すとそのまま扉を開いて出て行った。

恋の始まりに感じるどうしようもないその気持ちが私にも伝わって、同じようなときめきを感じる。

もう長い間忘れていた淡い光の下で育ってゆく春の果実をかじった時の甘酸っぱい恋の匂いがした。


「瀬名? 一人で帰れる?」


店を出る頃には咲が心配するぐらいに酔ってしまっていた。


「平気平気、こんなのいつものことだよ~」


履きなれた10cmのピンヒールが今夜ばかりは不安定な足元を一層危うくしている。


「タクシーで帰るから」


そう言って歩き始めた私の手をケンが支えてくれた。


「まっすぐ歩けてないよ、お酒弱くなったんじゃない?」


「なんで?? 全然まっすぐだよ」


手を振りほどくように歩き始めたもののすぐにこけそうになってまた支えられる羽目になった。