10年越しの恋

秋を迎えるとすぐに雅紀の誕生日。

出会ったあの日17歳だった雅紀がもう22歳になる。

実家に住む私達が二人でゆっくりと過ごすためにはホテルを取るしかなかったが、今年はまさよの会社が持つ保養所の一つであるリゾートマンションの1室を借りることが出来た。

大好きな海に面した1室は15畳ほどもある広いLDKに1ベットルーム。

ベランダからは目の前に綺麗な海岸線が見える。

たった1日の疑似同棲生活を楽しむように近くのスーパーに食材を買い出しに向かうと港町だけあって新鮮な魚がたくさん並べられていた。


「せっかくだからお魚料理にしよっか」


郊外型の広い店内を雅紀がかごを持って手をつないで歩いた。

同じ年ぐらいのカップルとすれ違うとそのカートにかわいい女の子を乗せている。

そんな姿に自分たちを重ねあわせた。

あと1年半で卒業を迎える雅紀が無事に就職したらその半年後には二人で住む約束をしている。

そしたら週末にはこうして買い物したり、その後はカフェでお茶をしたり。

そう遠くはない未来に甘い夢を見た。


部屋に戻って料理をしていると雅紀はリビングのソファーで軽い寝息を立て始めた。

長く付き合っているとどこかに出掛けるよりもこうして穏やかな時間を共有している方が楽しく幸せを感じる様になる気がする。

材料を入れ終わった鍋を火にかけて雅紀の顔を見上げるように床に座った。

開いた窓から潮の匂いを含んだ風がカーテンを揺らしながら吹き抜ける。

その風に揺れる雅紀の髪をそっと撫でた。


「寝ちゃってた… 膝枕して」


雅紀の隣に座り直すと甘えるように頭を乗せる。


「瀬名、おはようのキス」


「甘えすぎ!」


そう言って立ち上がろうとした私を捕まえてぎゅっと唇を押しあてた。

怒る素振りを見せながらキッチンに向うも幸せな気分でいっぱいだった。