「瀬名は今日もまだあの1年前と同じ場所にいる気がする。前を向いているようでずっと気持ちは後ろを向いたままで、小さな小さな自分の殻に閉じこもってる」


「そんなことないよ。ちゃんと仕事にも行ってるし、明日友達にも会うよ」


「でもそれはあくまで表面上の瀬名だよな。本当の気持ちはまだあの日のままだろ? もしかしたらあの日よりも悲しいところにいる」


何もかも雅紀は分かっている。いつもよりも強い意志を感じる目を見てそう思った。


「もうそろそろ気持ち切り替えられないかな? いまさら誰が悪いって責めたってどうしようもないんだし、今みたいな瀬名を見て華ちゃんは幸せになれると思う?」


「そうだけど……」


雅紀の言う通りだ。この1年、そして今も私は悲しみを理由に自分の世界に閉じこもり誰も寄せ付けなくなっていた。


「前に進もう。もう充分瀬名は苦しんだんだから… またさっきみたいにいつも笑っててよ」


雅紀の言葉が胸に突き刺さった。

私は悲しみに苛まれて雅紀の気持ちを考えることが出来なくなっていたことに気づいた。

華ちゃんを失って辛いのは雅紀も同じだったってことを。

「まあちゃん… ごめんなさい。自分勝手でごめん」


悲しみに押しつぶされそうだった私たちを1年後の今日、もう一度華ちゃんが強い絆でつないでくれたんだ。