月曜から金曜日まで会社に通う毎日を過ごしていたらあっという間に8月になっていた。

明日で華ちゃんとさよならしたあの日から1年。

会社を休んで雅紀とお寺に向う。

8月10日 当日はこれ以上ないほどに晴れ渡った夏の空が広がっていた。

わざわざ華ちゃんの眠る山を1度越えて雅紀はいつもの公園前に迎えに来てくれる。

小さな赤いリボンが掛けられた箱を抱えて車に乗り込んだ。

相変わらず紳士的な雅紀の運転に安心して助手席に身を預ける。

車内には邪魔にならない程度のボリュームで夏らしい選曲のFMが流れていた。


「その箱、華ちゃんに?」


「うん、向こうでも歩けるように靴」


華ちゃんがお腹にいた頃、生まれたら絶対に買おうと決めていたファミリアのファーストシューズだった。


「そっか…。俺は分かんないから自分が小さい頃に好きだったお菓子を買ってきた」


前を見つめる雅紀の横顔が久しぶりにパパの表情だ。

私のお腹に向かって話しかけていたあの日の顔になっている。


「晴れてよかったね」


切なすぎてそんなことしか言えなかった。


私達が住む街のちょうど中間にある山頂のお寺。

1年ぶりに訪れたこの場所は全く変わることなく綺麗な夏の緑に囲まれ下界とは違う凛とした空気をたたえている。

あの日と同じように石段を登って本堂の奥にある重い扉を開いた。

お地蔵様が並ぶ砂利道は夏でもうっそうとした木々に囲まれてひんやりとしている。

そんな道を数分進むと華ちゃんが眠るお堂が現れた。

私たちは持参したプレゼントを棚に置いて手を合わせる。


「華ちゃん… あれからもう1年です。寂しい思いはしていませんか」


数分目を閉じてこの1年の報告をし、そして改めて生むことが出来なかったことを謝った。

目を開くと雅紀はすでにもう手を合わせ終り隣で目の前の菩薩様を眺めていた。

雅紀がこの時何を考え、どんな風に感じていたのかは分からない。

でも無言のまま繋がれた手がいつもより冷たかったことを覚えている。

私たちはそのまま元来た道を下った。