社へ戻るとみんなの金田に喧嘩を売った新入社員という好奇の目が待っていた。

社会人として正しい態度だったとは言えないだろう。

素直に頷き適当に書類を作って、笑顔で手渡せばよかっただけのことなのかもしれない。

でももう理不尽なことに我慢出来なかった。

頑ななまでに自分に正直でいたかったんだ。



そのまま多くの視線を無視するように仕事を続け就業時刻を迎えた。

5時半に終業のチャイムが鳴った瞬間に席を立つと同時にごめんねと近づいてきた中島さんに自然に笑うことができたと思う。

私が今以上に傷つくことを怖がって人を遠ざけているのと同じようにここでの中島さんなりの処世術なのだろうと理解した。


「気にしないでください。私も大人げなくてごめんなさい」


そう言って1度外へ出た。

日の長い真夏とはいえもう夕暮れが迫っている。

入道雲が赤く染まるのを眺めながら煙草に火を点けた。

ふぅっと吐き出した煙は怠惰に過ごす私の1日を象徴するかの様にあっという間に跡形もなく消え去っていく。

ねぇ、雅紀。

結婚しようと誓ったあの日を覚えていますか?

今日と同じように暑い夏の日だった。

二人の子供はきっと小さいだろうから女の子がいいねって話したこと。

大きな犬を飼ってサーフィンに行くんだよね。

子供が出来たら絶対瀬名は教育ママになる! 

そう宣言してみせたり。

俺は甘やかした末にうっとうしいって嫌われる日がくるんだよな。

そう言った少し悲しげな表情すら愛おしかった。

二人で歩くたくさんの明るい未来がこの時にはあったよね。