ミサの後、誰もいなくなったその場所から私たちは動けないでいた。


「来てよかったね」


「うん」


キャンドルの淡い光が照らす祭壇を二人で見つめ続けていると後ろから足音が近づいてくる。

振りかえると司祭者の神父がいた。


「これをどうぞ」

驚く私たちに差し出されたのはマリアの姿が刻まれたロザリオだった。

「お二人の後ろ姿があまりにも悲しげに見えたので」


「信者ではないので頂けません」


固辞する私の手の平に握らせてくれる。


「私からのクリスマスプレゼントです。それと気が済むまでここで祈りを捧げていただいて結構です」


そう言い去って行こうとする神父に雅紀が声を掛けた。


「なぜ神様は俺たちに新しい命を授けたのですか?
どうしてこんな苦しみを与えるのですか?」


「赤ちゃんはあなた方のことを恨んだりはしませんよ。ただ自分たちが犯した罪を、その存在を忘れないであげてください」


聖堂内にその声が凛とした強さを持って響く。



「……」


「メリークリスマス」


幸せを祈る聞き慣れた言葉なのにとても新鮮に心に沁みわたる。


二人きりになった私たちは手をつなぎ祈った。


「華ちゃん、いつの日かもう一度私達の元へ戻って来て下さい」と。


その後、祭壇の前で雅紀が赤いジュエリーケースから銀色に輝く指輪を取り出した。


「この先も俺は瀬名だけを愛すことを誓います」


冬の寒さに冷たくかじかんだ手を取り交わされた約束。


あの日以来初めて重ねた唇はお互いの緊張が伝わり、まるでファーストキスみたいだった。


真剣な雅紀の目を見ると二人っきりの結婚式のような気持ちになる。


新しく左手の薬指に輝く指輪は永遠の愛のしるし。

カルティエの「Love ring」が私達の新たな出発の証となった。