10年越しの恋

2人からの電話に慌てて打ち上げ会場から飛び出した。

それでなくても元気がなかった瀬名に追い打ちをかけたさえの行動に、そんな女が自分の姉だということに怒りがこみ上げる。

家の前に着くとすぐにゆうさんへ電話をした。


「そのまま瀬名の部屋に上がって来て」


言われるまま玄関を開き3階へと向かう。

誰もいない静まり返ったリビングに響くモモの声。


「静かにしてね」


頭を撫でてやると俺だと気づいてしっぽを振って迎えてくれた。


そのままもう一つの階段を駆け上がりドアを開いた先には優しく膝の上で瀬名を包み込むゆうさんの姿があった。


「瀬名……」


「お酒と薬、でも心配ないみたい。本人がそう言ったから」


ゆうさんの膝から瀬名を抱えあげてベットにそっと運んだ。

起きる気配もないその力の抜けた手を握るといつものぬくもりは全く感じられない。

そんな小さな手を包み込むように温め続けた。

血の気が全く引いてしまい顔色を失った姿に怒りを通り越した悲しみがこみ上げた。


「本当に病院行かなくて大丈夫かな?」


感じていた不安を言葉にしたとたん、このまま本当に瀬名がいなくなってしまうような気がする。


「きっと大丈夫。だって今の瀬名すごく穏やかな顔してるから」


標準サイズより小さい体のくせに広いベットにいくつも枕を並べて眠るのが大好きで、最初は張り切って大の字になってみせても熟睡すると隅っこで丸く小さくなる。

今日もいつの間にか布団を抱え込むような体勢になって寝息を立て続けている。


”なんか落ち着く”

二人で一緒に夜を過ごした時いつも俺の腕を自分の体に巻きつけて、恥ずかしいからと言って背中を向けた瀬名を思い出した。


「携帯鳴ってるよ」


そんなゆうさんの声に楽しかった日々の記憶をさまよっていた意識が現実に引き戻される。


「はい」


今一番声を聞きたくない相手。

さえからの電話だった。