お寺から戻った家は宴の後。

慌ただしく片付けをする母親の後ろ姿が目に入った。


「手伝おっか?」


急な私の問いかけに叫び声をあげる。


「もう! びっくりするじゃない、ただいまぐらい言ったらどうなの」


「玄関で声かけたよ」


そう言いながら散らかった食卓の食器をシンクへと運んだ。


綺麗になったグラスやお皿を乾燥機へと並べながら、隣に立つ母親の何か言いたげな気持ちが伝わってくる。

そんな雰囲気に耐えきれず、急いで手を動かした。


「もうこのぐらいでいいよね?」


私はあわてて部屋へと階段を駆け上がった。

落ち着かないままパジャマに着替えると床にへたり込んでTVを点ける。

別に何かが見たかった訳じゃなく、ただ静寂に耐えきれなかったから。

そうしているうちに家に着いた雅紀から電話が掛ってきたけど、話が弾むはずもなく10分程で切ってしまった。

毎晩の「愛してるよ」

そんな大切な言葉も心に響かず、


「ありがとう」


そう答える自分に違和感を覚えた。


この2日間のことは一生忘れることはないと思う。

たくさんの思いが胸に去来したが、もう考える気力もなくTVを消しベットに横になった。

連日の睡眠不足と疲労にすぐに眠りが訪れる。

その瞬間だった。

激しい動悸と恐怖に涙がこぼれる。

目を開けたとたんに広がる暗闇に一瞬で意識が覚醒した。


華ちゃんがいなくなる直前の記憶。

静脈麻酔を打たれて1、2、3と数える声。

周りで忙しく動く看護師さんの足音。

すべてが鮮明に脳裏に浮かび上がってくる。

大声で叫びそうになるのを押さえながら、リモコンを探してTVを点けた。


ぼんやりと映し出される映像に意識を向けて震える体を自分の両手で押さえこんだ。