なにも考えることが出来なくなってしまいふらふらと雅紀の部屋へ戻った。


「どこ行ってたの?」


吸っていた煙草を慌てて消すその姿にすべてをぶつけたい衝動に駆られる。

でも、絶対にそうしてはいけない、

雅紀を傷つけることになると思った。


「少し気分悪くなちゃって外の空気を吸いに」


鞄を手に取って無理やり笑顔を作った。


「今日は帰るね」


そのまま部屋を出ようとする不自然な態度に腕を掴まれる。


「何かあったんじゃないの?」


「うーうん、ただ少し疲れただけ」


今にも泣きだしそうになるのを気付かれないように背を向けた。


「じゃあ送るよ」


「今日はいいや、電車で帰りたい気分だから」


もう一度、精一杯の笑顔を雅紀へと向ける。


「じゃあバス停まで送るよ」


今まで何度も二人で歩いたこの坂道。

同じように繋いだ手がいつもより切なく感じるのはなぜだろう。

吸い込んだ空気は濃い夏の匂いがする。

大好きな夏なのに…。



「瀬名、今日は本当にごめんな。もう俺の顔なんかみたくないって思ってる?」


「そんな訳ないでしょ! 気にしないで」


「だったらなんで送らなくていいって」


「まあちゃんも疲れてるでしょ! 事故って3人で死にたくないもん」


出来る限りの明るい声で言った。

やっぱり何かを感じているのかもしれない。

雅紀は切なそうな表情を見せた。


「そっか、じゃあ家着いたら電話しろよ」


「うん」


乗り込んだバスを見送る雅紀の表情が曇って見えた。



バスの車内でゆうへメール。


”今夜会えませんか? 話したいことがあります”


バス、電車と乗り継いで家に向かう間中何度も雅紀のお母さんとさえちゃんの言葉を思い浮かべた。



私が赤ちゃんを産むことでそんなに迷惑をかけてしまうのかな?

もしかしたら私は雅紀には相応しくなくて、雅紀を不幸にしてしまうのかな…。

ねえ華ちゃん、お母さんはどうすればいいですか?


溢れそうになる涙をこらえながら地元の駅へと向かった。