10年越しの恋

昨日よりも今日ますます吐き気がひどくなり、張った胸は痛くて仕方がない。

白いご飯を受けつけずに大嫌いだった甘いもの。
たとえばメロンパンなんかが無性に食べたくなる。

今朝もぼさぼさの髪の毛のまま近くにあるパン屋さんで甘いパンを買い牛乳と一緒に食べていた。


「めずらしいわね、瀬名が甘いパンと牛乳なんて」


怪訝そうな母親の顔に動揺する。


「お母さん、今日コンタクト買いに行くから保険証」


昨日から考えていた嘘だった。


「その引出しに入ってるわよ」


「ふーん、じゃあ行ってくるね」

居心地の悪さにたまらず家を飛び出た。



ネットで調べたその病院はパステルピンクを基調としたかわいい内装。

早めに出かけたのにすでに妊婦さんでいっぱいだ。

周りの視線に居心地の悪そうな雅紀だったが精一杯の毅然とした態度が少し頼もしかった。

受付で記入を終えた問診表を提出して順番を待った。

みんなが大きく迫り出したお腹をさすりながらピンク色の椅子で順番を待つ。

色んな診療科目の中でもこんなに幸せに包まれた所はないんじゃないかと思った。