何も考えることができなくなり、ベットの上で吐き気と眠気によるだるさに横になっていた。

サイドボードで携帯が呼び出しを知らせる。

”着いたよ、いつもの公園の前で待ってる ”

ふらふらとノーメークのまま向かった。

今でも思い出すのは夏の暑さときれいな緑の葉を茂らせる桜の木。


車に乗り込むと雅紀の吸う煙草の匂いに違和感を感じる。

冷静にわざわざごめんねと笑顔を向けた。


「どうした、なんかあった?」

心配そうにこっちを見てくれる視線に顔を上げることができない。

膝の上でハンカチを握りしめ、勇気を振り絞った。




「まあちゃん… あのね…」


「どうしたの? 顔色悪いよ」


優しく雅紀の手が髪を撫でてくれる。

たまらない不安に押しつぶされてしまいそうだった。


「あのね…………、子供が出来たかもしれない」


そういった瞬間に涙が止まらなくなる。

数秒の沈黙が何時間にも感じられて怖くて仕方がなかった。


「そっか、瀬名はどうしたいの?」


いつもの雅紀の声を聞いた瞬間、ずっと続いていた緊張が緩んでしゃくりあげるように泣いてしまう。


「あのね、まあちゃんまだ20歳だし。私も試験あるし」

涙で言葉が続かない。


「ゆっくりでいいよ。一人で悩んでたんだよね」


背中をさすってくれる雅紀の大きな手に余計に涙が止まなくなってしまった。


「まあちゃんはどう思う?」


ゆっくりと深呼吸をし優しく答える。


「うれしいよ、でも一つの新しい命が掛かってるんだから無責任な返事はできない」


「うん、私もそう思う。だからね…」


「とりあえず明日病院へ行こう。一緒に行くからさ」


どれぐらい雅紀の胸で泣いていたんだろう。

自分一人で抱えていた不安がいつの間にか薄らぎ、涙もだんだんと収まっていった。