卒業式の後、3人で正門へと続く石畳を歩く。

いたるところで小さなグループが集まって別れを惜しんでいる。

人ごみをかき分けながら前へと進んでいると、

ケンが近づいてきた。

それを見たさやとまさよは、

「先行っとくね」って。

意味深な笑顔を残して行ってしまった。


黒地に薄くピンストライプが入った細身のスーツが、背が高くがっちりとした体格のケンにぴったりだ。

「結構スーツ似合うね」

そんな私の言葉にそう?と照れ笑いを浮かべている。

なんだかいつもとは違う表情に戸惑う。


「二人で写真撮ってやるよ。はい、並んで!」

隣に立っていたケンの友達、剛が私達の前でカメラを構えた。

訳が分からないままファインダーへ向かうと、ケンの緊張が伝わり、私まで少し固くなってしまう。

「笑って!」

たくさんの人が行きかう中、2ショットが完成した。


「じゃあがんばれよ、ケン」

困ったように笑いながら剛に肘鉄をくらわし、はしゃぐ様子を眺めた。



周囲の喧噪には似合わない沈黙。


妙な態度にケン? と発した私の声と、

「あのさ…」話し始めようとする声が重なった。


「何? お先にどうぞ」

微妙に逸らされていた顔が正面を向き、

「これもらってくれるかな」

小さなかわいいブーケとお守りが差し出される。

不思議そうに顔を見上げると、強引に私の手に握らせた。

「9月、大学院の試験受けるんだろ。だから学業成就のお守りと、あとこの花は……」


「俺さ、ずっと瀬名ちゃんのことが好きだったんだ。だからって別に付き合いたいとかじゃなくって」

「ケン、私ね」

「いや、分かってるから。ただ最後にすっきりしたかったっていうか…。伝えておかないと後悔する気がして。なんか勝手でごめんな」

「私こそ、その鈍感で…」

ケンの表情が優しく緩む。

「だから瀬名ちゃんがよかったのかな? これからもさ、俺は就職後もこっちだから。友達として飯ぐらい行こうな」

「もちろん! 4年間本当に色々ありがとう」

「おう! じゃあまたな」

私の頭を軽くポンと手ではたくようにしてその場を立ち去っていった。