病院の駐車場へ向かうとホストファミリー全員が出迎えてくれた。

思いやり一杯のケイトの手を放し、後部座席へと乗り込む。

「車で国境越えるって日本人のセナにはない経験だよね! メキシコ料理は好き? 辛いんだよ! でもね…」

そんなブライアンの迷解説にやっと少し笑うことができた。

夏の午後。L.Aの空はみごとに晴れ渡っている。

「なんかね、回転する門を抜けるとメキシコなんだよ」そうミカが教えてくれる。

「え? 遊園地の入り口みたいな?」

泣いた後で鼻声の私を元気づけるかのように
「うん」と自慢げな様子で頭を上下させるのがかわいい。

サンディエゴに入るともう国境だった。

「歩いて行く方が面白いよ」

ニックの提案にブライアンを先頭に、ミカと手をつないで先に車を後にした。

高速の料金所のようなゲートに並ぶたくさんの車を尻目に歩道橋を上がって降りると本当に回転する柵があり、その向こうはメキシコだった。

一歩踏み入れると雰囲気がガラッと変わる。
陽気なラテンの国そのものだった。

海沿いのフリーマーケットを冷やかしながら歩いた。

ニックが案内してくれたのは、屋外のデッキでメキシコ料理を楽しめるレストランだった。

トルティアチップスにアボカドのディップを乗せながら、薦められるままにマルガリータを飲んだ。

「セナ、大丈夫?」

食事が一段落したところでニックが尋ねる。

「はい…。これが現実なんですよね」

「そうだね、医者やカウンセラーをやってると多くの人の死に直面する。だからそこで潰れてしまわないように自分なりの信じるものや、強さが必要なのかもしれない」

「実感しました…。私にできるのか少し不安です」

「大丈夫だよ。最初は僕も同じように泣いた。泣けない方がおかしいんじゃないかな? セナは十分この数週間がんばってたよ」

「ありがとうございます」

「ほら、気持ち切り換えて! 大切なことだよ」

賑やかなこの街に連れてきてくれた理由がわかった気がした。

「セナ! これ美味しいよ」

ミカが一生懸命包んでくれたブリートを受取り、思いっきり頬張る。

未来ちゃんの命を胸に刻んだ1日だった。