愛を餌に罪は育つ

“別れよう”と言った彼の声が小さくなりながらも頭の中に響いている。


言われた事を思い出しても私の心は傷付いた様子はなかった。


いつフラれたんだろう。


その時の私はどうしたんだろう。



『美咲ちゃん、大丈夫?』



ハッとして顔を上げると、翔太君が心配そうな目を向けていた。



「ごめん、ボーッとしちゃって。大丈夫だよ」

『ならいいけど、きつかったら言ってね』



私は翔太君に笑ってみせ、お酒を飲んだ。


炭酸特有のシュワシュワした喉越しの良さは薄れてしまっていたが、それでも美味しかった。


たまに現れる知らない男性。


そして事件当時の光景。


他にもふとした瞬間に涙が出そうになったり、恐怖で呼吸が浅くなったりする。


理由は分からないのに感情だけが現れる。


記憶がなくても心と体はしっかり覚えているのかもしれない。


たまにもう一人の自分に頭と体を支配されている感覚に襲われる。


私の知らない記憶を持っている自分に――。