愛を餌に罪は育つ

鞄を肩からかけ、静かに席を立った。



「さようなら」



そう言って朝陽の横を通り過ぎようとしたら、突然腕を掴まれ一気に体が固まってしまった。


朝陽を見ると、朝陽はやはり同じ場所を見詰め、私の方へは顔を向けていなかった。


口が微かに動き、何かぶつぶつと呟いているようだが、近くにいるのに何て言っているのか全く聞こえない。


私は力いっぱい腕を振りほどき、出口へと足を進めた。


ゆっくりそして足早に、そして駆ける様にお店の外へと急いだ。


その間一度も振り返らなかった。


そして必死に手を上げタクシーを止めた。



「すみません、とりあえず出してもらえますかッッ!?」

『お客さん大丈夫ですか?急ぎですか?』

「あっいえ、とにかくここを離れたいんですッッ!!」



私の剣幕と慌てように驚いた顔をした運転手のおじさんは、急いで車を出してくれた。


安心したのか手や腕、全身が震えている。


体の震えを落ち着かせようと目を閉じると、冷たいものが頬を伝った。


涙――。


震えの止まらない手で何度も拭うが中々涙が止まらない。