愛を餌に罪は育つ

『梓――?梓って美咲の友達だろ!?僕は彼女とは何の関係もない!!』



まだシラをきるつもり?


今も関係を持っているにしろ、過去に持っていたにしろ認めればいいのに。



『彼女がそう言ってるの!?』

「梓からは何も聞いてない」

『じゃあどう――』

「指輪を持ってた。朝陽が無くした私とのペアリングを持ってたの」



眉間に皺を寄せ、あり得ないとでも言いたげな目を向ける朝陽。


どんな顔をされようがどんな言葉を言われようが、朝陽を信じる気にはならなかった。



「記憶を失くす前までは私たち付き合ってたかもしれないけど、申し訳ないけど今は何とも思ってない。だから会うのはもうこれで最後にしてほしい」



目線を下げ、ずっと一点を見ている朝陽からは感情がよく読み取れなかった。


怒っているわけでも愕然としているわけでもない。


ただ、それが凄く不気味で怖かった。



「もう私の事は忘れて。携帯ももう持ってないし、連絡先も誰にも教えてないから聞いても無駄だよ」



私は財布から千円札を一枚出し、テーブルの上に置いた。


朝陽は私の顔を見ようとしない。


それどころかやっぱり視線はずっと同じところを見詰めている。


瞬きすらするのを忘れているかのように。