愛を餌に罪は育つ

朝陽は怖い顔をしたまま黙り混み、暫くシンとした時間が流れた。


もう、帰りたい。



『記憶、戻ったの?』

「――記憶は関係ない」



少しだけ戻ったと言おうかどうか悩んだが、私は嘘をついた。


今日で関係を綺麗にするなら朝陽には関係のない事だから。



『じゃあどうして僕が浮気してるなんて思うんだよッッ!!そんなの可笑しいだろッッ!?』

「どうして知ったかなんて朝陽に言う必要ないでしょ」

『あるよッッ!!今のままで納得なんかできないッッ!!』



朝陽はまるですがるようにマグカップの取っ手に掛けている私の手を握ってきた。


朝陽の体温を感じた瞬間、頭に血が昇ったかのようにカッとなった。


手を振りほどいた時には気付けば勝手に口が動いていた。



「触らないでッッ!!もうそんな白々しい演技はたくさんッッ私の事は忘れて梓と付き合えばいいじゃないッッ!!私は何とも思わないしむしろそうなってくれた方が嬉しいくらいだよッッ!!」



息を吸うのも忘れ、感情任せに言葉を言い放ってしまい、言い終わった後はあり得ないほど肩が上下していた。


興奮したからか寒くもないのに手が震える。


私は朝陽にこの震えがばれないように握り拳をつくり、力をこめた。