「雨かぁ……。予報じゃ、雨が降るなんて言ってなかったのにな」 隣で呟くように話す郁人の言葉を、ぼんやりと聞いていた。 二人共、傘を持ち合わせていなかったからこのまま駅まで歩くしかない。 「途中で傘が売っていたら買おうな」 と、郁人は言うけれど…… 私にとったら、傘なんてどうでもよかった。 持って行き場のない、この喪失感。 ――あの日の光景がフラッシュバックして、私を襲ってきた。