「奈緒、よく聞けよ!
親父さぁ、事業を拡張したくて、その『辰巳会』にいる中嶋さんっていう県会議員の娘と兄貴とを結婚させようとしているんだ」
「…えっ?……結婚?」
血の気が引くような思いがした。
郁人の思いも寄らない話に身体中に緊張が走った。
知らぬ間に拳を握り締めていた。
「あぁ。今度、その中嶋さんが国政選挙に出るらしいんだ。……で、兄貴に白羽の矢が立ったという訳!」
「………」
「でも、兄貴の心の中は、奈緒だけだと思う。
今でも奈緒のこと、すげぇ好きだと思う。
兄貴もかなり悩んだんだけどさぁ……」
――そこから先は、何を話されたのか、全く覚えていない。


