彼と彼女と彼の事情



「…えっ?何!?
今、何て言った?『好き』って言ったよな?」


両肩をガシッと掴まれたまま、顔を覗き込まれた。 

「どうなの?」


もう一度尋ねられ、コクンと頷くと、そのままぎゅうっと力強く抱き締められた。


「嬉しいよ。すげぇ嬉しいよ。
こうやって子どもの話までするのに、肝心の奈緒の気持ちが聞けてなくて本当は俺、焦ってたんだ。
マジで嬉しい。ありがとう」


心なしか、郁人の声が擦れている。


「ううん。こっちこそ、ありがとう。
ずいぶん待たせちゃったね。ごめんね、郁人」


「ごめん、なんかじゃないよ!」


抱き締める腕が、さらに強まった。


暫しの間、彼の胸の中で時を過ごした――。