彼と彼女と彼の事情

「そうだなぁ……」
と言ったきり、言葉が途切れた。


聞いてはいけないことを聞いてしまったようで、なんとなく居心地が悪かった。


自分が発した無責任な言葉に、少しだけ後悔の念が沸き起こる。



グラスに注いであった残りのビールを一気に飲み干した隼人は、テーブルにグラスを置き、静かに話し始めた。



「あいつが事故った日、俺んちまで来ただろ?あのとき、だいぶあいつに説教されたよ」


「……えっ?」


「『結婚するんだから奈緒にはもう付き纏うな』ってさ!」


苦笑いを浮かべた隼人は、タバコに手を延ばした。



カチッと音を立てたライターからタバコに火が点けられ、煙が立ち上る。



「俺さぁ……結婚するけど、できれば、こうしてたまに会いたいと思ってる」


「えっ?」


それは、どういう意味なの……?


「もちろん、奈緒の気持ち次第だけど」 


それって、結婚してからも付き合いを続けていくということ?


私たち子供じゃないんだから――それの意味することくらい容易に理解できた。

それはあまりにも都合のよすぎる話で、隼人の言葉に目を見張った。


けれど、隼人の目は真剣そのものだった。