「格好悪いけどさ……彼女といても、いつも頭の中に奈緒が浮かんでた。こんなとき、奈緒なら何て言うかな?とか、奈緒ならどんな顔するかな?とか……。俺は、親の言いなりになった情けない男だ。でも――」

隼人の頬が、私の頬に重なる。


その一瞬のことに、驚き、ビクッと肩を竦めた。



「失ってから気付いたんだ。奈緒がどれだけ大切な人か、ってことを」


「隼人……」


思いも寄らぬ隼人の言葉に、今までの出来事が走馬灯のように蘇り、信じられない気持ちでいっぱいになった。 


あの雨の日の別れから、事情を聞いた居酒屋でのこと。仲睦まじいホテルでの二人。


鮮明に頭の中で、早送りされていく。


ゴクンと唾を飲み込んだ私は、次の言葉を待った。



でも…… 


「俺さぁ、仕事でミスったんだよね。あり得ないミス犯して……。実は、ここんところ塞ぎ込んでたんだ。
そこへ、あいつの事故があって……なんていうか…その……」


緩んだ腕を解き、後ろを振り返ると、苦渋に満ちた表情の隼人が見て取れた。