何も言わず、ただギュッと抱き締める隼人。


この状況なら、逃げようと思えば、簡単に逃げられたはずだ。


でも……狡い私は、隼人に抱きしめられたまま動こうとはしなかった。


しばらくして、彼の口からようやく言葉が洩れた。 

「ごめんな。今まで辛い思いばかりさせて……」


いい終わると同時に、抱き締める腕がさらに強まった。


ドクン…ドクン…


さっきより早くなる胸の鼓動。


二人きりの静かな部屋では、唾を飲み込むのさえ、躊躇ってしまう。


すぐ後ろにある隼人の顔が、見られない。


振り向けば済むことだけれど……振り返ることができなかった。


「奈緒には本当に悪いことした。……ごめんな」


「隼人……」


振り返ろうとした私の身体をきつく抱き締め、制止させた。


「このままで聞いてくれ。俺、自分から別れを切り出したのに、いまだに奈緒のことを引きずってるなんて女々しい男だよな」


そう言いながら、隼人は自嘲気味に微かに笑った。