彼と彼女と彼の事情

「どうする?やっぱりお茶にしとく?それとも……」

「いや、いいよ。このままで」


プシュ〜とプルタブを引き上げ、缶ビールを開けると、そのままゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み始めた。

「はぁ〜っ、うまいっ!やっぱりここは落ち着くよな」


……やだ。軽々しくそんなこと言わないでよ。


胸が少しだけギュッと痛む。 


「奈緒……こっち来いよ」

「えっ……」


「いいから、早く!」  

ぐいっと腕を引っ張られ、瞬く間に大きな隼人の胸の中に収まった。


ドクン…ドクン…


隼人に聞こえてしまうのではないかと思うくらい、心臓が騒めきだした。 


後ろから抱き締められたから、隼人の表情までは分からない。 


でも……


隼人の体温がすぐ近くで感じられ、すごく温かかった。