彼と彼女と彼の事情



カタンと、お猪口をテーブルに置いた隼人は、口を一文字に結び、私の顔をじっと見据えた。


「正直なところ、親父の会社、経営がかなり厳しい。
不渡りも出しているから、このままだと今年いっぱい乗り切れるかどうか分からない」


「…えっ?ほんとに?」


「あぁ。
実は、だいぶ中嶋先生(議員)に口利きしてもらって助けられたんだ。
そんな矢先の話だったんだよ……見合い話」


「………」


私は何と言ったらいいのか分からなかった。


掛ける言葉が見つからなかった。


俯いて、申し訳なさそうに話す隼人からは、これまでの自信に満ちた、あの強気な態度なんて微塵も感じられなかったから。